やけどを正しい方法で治療するには

健康な皮膚なら、侵入してきた細菌をマクロファージやガンマグロブリンといった免疫機能がやっつけますが、やけどで死んでしまった組織は、そういった防御機能を持たない、まったく無防備な状態にあります。そのような無防備な組織が細菌に感染したら、患者さんは命を落としかねません。感染を防ぐための、生きるか死ぬかの治療をしていたわけです。大学病院ですから、医薬品メーカーがさまざまな新薬を持ってきます。少しでも早く治すために、たくさんの薬の中から、あの薬、この薬と手探りの状態のこともありました。当時は、感染を防ぐために軟膏やクリーム基剤の抗生物質をぬるのが、やけどの標準的な治療法のひとつでした。ところが、どうもおかしいのです。やけどが治りかけてくると、皮膚が死んでとけてしまったように見える毛穴から「皮膚の芽」が出てきます。ます。ところが、教科書どおりに、そこに抗菌剤などのクリームをぬると、なぜかせっかく治りかけてきたやけどの部分がドロドロになってくるのです。ドロドロの正体は、いまにして思えば、クリームという異物を排除しようと、大量に分泌した組織液と死んだ細胞とが混ざったものでした。そこで、生理食塩水で洗うだけにしてみると、どのような最新で、高価な薬をつけるよりも、圧倒的に早く治るのです。生理食塩水とは、体液とほぼ同じ濃度(約0・9%)の食塩水、つまり単なる薄い塩水です。傷口を乾燥させると、細胞が死んでしまいますので、湿らせておかなければなりません。乾燥させないようにクリームや軟膏をつけたほうがいいという説もありましたが、私たちは生理食塩水で傷口を湿布して、乾燥を防ごうというもっとも基本的かつシンプルな治療がいちばんという結果にいきついたわけです。実際、生理食塩水で湿布をすると、傷口がドロドロになることもなく、順調に「皮膚の芽」は育っていき、治りも早くなりました。生理食塩水は、刺激がないので痛みもなく、治療費も格段に安くて、これほどいい治療法はありません。このとき私は、生理食塩水という「という「水」が抗生物質よりも、クリームよりも、やけどの治療に効くことを知りました。もちろん、やけどの治療法は、ケースバイケースですから、塩水だけでは、どうしても不十分ということもあります。重症な感染をおこしてしまった場合には、治るまでの間だけ、抗菌剤の湿布をしたほうがいい場合もあります。しかし、それはやけどの治療としては、感染がひどくなってしまった特別な場合の治療法といえます。