トイレのあとに清潔に保つには

「清潔さ」をもっとも必要とされているはずの傷口でさえ、水で流すのがいちばんの治療法であり、やけどの患者さんが感染症で生きるか死ぬかの瀬戸際で、もっとも頼りになったのも、生理食塩水という水でした。水の力はそれほどすばらしい「薬」なのです。日常の生活でも、からだを、そして髪を清潔に保ちたかったら、このすばらしい水の力を借りて洗うのがいちばんです。皮膚を乾燥させることもなく、過剰な皮脂分泌によって体臭を強めることも、肌や頭皮を荒らすこともなく、しかも、汚れもニオイもきれいさっぱり洗いながしてくれるのですから。
膀胱炎や尿道炎にかかっているなら別ですが、健康なからだから出てくる尿には菌は含まれていません。無菌なのだから、おしっこが手についても別に洗わなくてもかまいませんが、それではなんとなく気持ちが悪いので、水で洗いながしておくという感じです。
便は尿と違って大腸菌を含んでいますが、大腸菌も水で流れます。下痢をしたら、その便にはふつうよりも毒性の強い菌が含まれていますが、そういった菌もすべて水で流せます。細菌の大きさは1mmの1000分の1~10ほどです。そんなちっぽけな細菌など、流水の水圧を受けたら、ひとたまりもありません。ほとんどが流されてしまいます。たとえ、どこかにひそんでいて、運よく生きのびた細菌がいたとしても、心配は無用です。菌が増殖していくためには、まずは自分たちの「根城」(医学的には「バイオフィルム」といいます)をつくらなければなりません。そして、その根城をつくるには、一般的には10万個以上の菌が必要で、それ以下では、マクロファージやガンマグロブリンといった免疫細胞にやっつけられてしまい、感染することは不可能なのです。この10万個という数字は、毒性の強弱には関係ありません。ほとんどの細菌は毒性が強くても弱くても、10万個なければ根城はつくれず、したがって感染もしません。まれに感染力の強い菌がいますが、それでも100~1000個は必要ですから、水でていねいに洗いながして菌の数さえ減らしておけば、感染力の強い菌がやってきても、感染の心配はないのです。このことは、すでに医学的にも確立された考え方です。外出先から家に帰ったら、まず手をせっけんで洗うこと、学校で習ったかもしれませんが、トイレのあとと同様、せっけんは不要です。水で洗って、細菌の「数」を減らしておけば問題ありません。

最近、病院はもちろん、銀行や市役所や大手スーパーなど公共施設の入り口にアルコールの消毒液が置かれています。これらの建物に入るたびに消毒液でシュッシュッとしていたら、皮膚を傷めるばかりか、常在菌を減らし、そのせいで、得体の知れない菌がいっぱいついて、手は不潔このうえない状態になってしまいます。