不潔は人を丈夫にする

私が小さい頃、父は東北の小京都といわれる秋田県角館町の町立病院で勤務医をしていました。かなり古くて汚い病院で、幼い頃、私は、患者さんたちのバイ菌が手にも服にもたくさんついていたはずの看護師さんたちに、いつも遊んでもらっていました。母が病院へ私を迎えに行くと、ゲタ箱の前で、患者さん用のスリッパを舐めて遊んでいたのを見て絶叫しそうなほど驚いたといいます。しかし、そういう人間のほうがかえって健康で強くなるようです。おかげさまで私も、子どもの頃からとても丈夫で、これまで体調不良では学校を休んだことも、仕事を休んだこともありません。妻は私とは対照的で、とても清潔好きな母親の元で無菌状態のような環境で育ったせいか、異常なほどのきれい好きです。外から帰ったら手を洗う、なんていう上品な習慣を持たなかった私は、そのままの手で食べものをつまんだりして、そのたびに妻に叱られています。妻は昔から病気がちで、小学生の頃は、喘息のため遠足にも行ったことがなかったそうです。清潔な環境で育てられた人間は、かえってからだが弱くなるというのは本当のように思います。わが娘はというと、これまた異常なほど丈夫で、これまた学校を休んだことがありません。私の仕事の関係で、一家でアメリカで暮らしていたことがあります。妻がいうには、ある日、2歳になるかならないかの娘を託児所へ迎えにいくと、手垢で真っ黒になっているおもちゃをペロペロ舐めて遊んでいたそうです。妻が卒倒しそうになったことはいうまでもありません。清潔すぎる環境は人間を虚弱にします。子どもはある程度、不潔に育てることが重要なのです。このことは、医学的にも説明がつきます。母親の胎内にいるとき、胎児は文字どおりの無菌状態にあり、したがって生まれてすぐは、ほとんど免疫や抗体を持っていません。
産道をとおって産まれてくるときに、無数の大腸菌に感染し、母親の胸に抱かれてそこでもまた細菌に感染して、抗体やら免疫やらを獲得していきます。とくに生後半年頃から3歳頃までは、大変な勢いで抗体を獲得する時期ですので、その時期にはとりわけ、不潔なものにさらされることが大切になります。
ます。不潔なものにふれなければ、十分に抗体を獲得できません。3歳頃までの子どもは、何でも口に入れたがります。口に入れることが必要だからなのです。現代人は不潔なものを目の敵にして、徹底的に排除する傾向にあります。このいきすぎた清潔志向は免疫力を衰えさせ、人を虚弱にします。